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名古屋地方裁判所 昭和35年(ワ)609号 判決 1960年7月07日

原告 大洋工業株式会社

右代表者代表取締役 柘植勉

右訴訟代理人弁護士 竹下伝吉

右訴訟復代理人弁護士 山田利輔

被告 伊藤弘平

被告 伊藤とよ

被告両名訴訟代理人弁護士 亀井正男

主文

被告等の訴外吉川隆雄、吉川良枝に対する名古屋簡易裁判所昭和三十四年(イ)第一九〇号建物所有権返還請求事件の執行力ある和解調書正本に基く別紙目録記載の建物に対する家屋明渡の強制執行を許さない。

別紙目録記載の建物が原告の所有なることを確認する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

名古屋地方裁判所が同裁判所昭和三十五年(モ)第八五号事件につき昭和三十五年一月十八日なした強制執行停止決定を認可する。

前項に限り仮に執行することができる。

事実

原告は主文第一、二、三項同旨の判決を求め、請求の原因として、別紙目録記載の建物は元訴外吉川良枝の所有であつたが、原告は昭和三十四年三月二十五日右訴外人に金五十万円を弁済期を昭和三十四年九月三十日と定めて貸与し、該債務の支払を担保するため右建物につき抵当権設定及び停止条件付代物弁済契約をなし、同年三月二十六日これが抵当権設定登記手続及び停止条件付所有権移転の仮登記手続をなしたところ、同年十月二十日右建物について右代物弁済による所有権移転を受け、昭和三十五年一月十六日右仮登記に基く本登記としてこれが所有権移転登記がなされたものである。しかるに被告等は被告等の訴外吉川隆雄同吉川良枝に対する名古屋簡易裁判所昭和三十四年(イ)第一九〇号建物所有権返還等請求事件の執行力ある和解調書正本に基き右建物に対し家屋明渡の強制執行をなした。よつて原告は右強制執行の排除と右建物に対する原告の所有権の確認とを求めるため本訴請求に及ぶ。と述べ、被告等の主張事実中被告伊藤とよが原告を被申請人となし、昭和三十四年十二月二十四日名古屋地方裁判所昭和三十四年(ヨ)第一〇八四号をもつて右家屋につき譲渡、質権、抵当権、賃借権の設定その他一切の処分をしてはならない旨の仮処分をなしたことを認めた。

被告等は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告主張の請求の原因たる事実中抵当権設定契約同登記手続の点を除きその余の点を認め、被告伊藤とよは右建物を前所有者吉川良枝より昭和三十四年三月五日買受け、同年四月四日これが所有権移転登記をなし、更に同被告は原告を被申請人となし、昭和三十四年十二月二十四日名古屋地方裁判所昭和三十四年(ヨ)第一〇八四号をもつて被申請人は右家屋につき譲渡、質権、抵当権、賃借権の設定その他一切の処分をしてはならない。との旨の仮処分決定を得ており、よつて原告の前記所有権移転登記は右仮処分決定に違反してなされたものであり、(最高裁判所昭和二十六年(オ)第一三七号第三小法廷昭和三十年十月二十五日言渡判決参照)原告はその所有権取得をもつて被告等に対抗し得ないものであるから原告の本訴請求は失当である。と述べた。

証拠として ≪省略≫

理由

原告主張の請求の原因たる事実中抵当権設定契約同登記手続のなされた点は被告等において明らかに争わないので、これを自白したものと看做すべく、爾余の点は当事者間に争のないところであり、被告伊藤とよが右建物を前所有者訴外吉川良枝より昭和三十四年三月五日買受け、同年四月四日これが所有権移転登記手続をなした点は原告において明らかに争わないのでこれを自白したものと看做すべく、同被告が原告を被申請人となし、昭和三十四年十二月二十四日名古屋地方裁判所昭和三十四年(ヨ)第一〇八四号をもつて被申請人は右家屋につき譲渡質権抵当権、賃借権の設定その他一切の処分をしてはならない旨の仮処分決定を得ていることは、当事者間に争いがない。而して不動産登記法第七条第二項によれば、仮登記をなしたる場合においては本登記の順位は仮登記の順位による旨規定せられており、仮登記に基く本登記は該登記に遅れてなされたる当該不動産につきなされる登記に優先することが明らかであるので、原告の右仮登記に基く本登記以外の処分行為にして右仮処分に遅れてなさるるものは格別前記仮登記に遅れてなされたる右仮処分決定をもつてその後になされたる前記仮登記に基く本登記に基く本登記の効力を左右しがたいものと解すべく、被告等援用の前記最高裁判所判決は右のごとく登記簿上仮登記の公示ありこれに基く本登記の当然予想しうべき場合と異なりかかる登記簿上の公示が仮処分以前になされていない案件にかかるので本件に適切ならず、果して然らば原告は被告等に対し右家屋の所有権をもつて対抗しうべく、被告等においてこれを争いいることは記録上明らかなるをもつて原告は被告等に対し右家屋の所有権の確認を訴求しうべき利益あると共に右家屋に対する被告等の前記強制執行は不当としてこれを許し難く、よつて原告の本訴請求はすべて正当としてこれを認容し、民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項本文、第五百六十条、第五百四十九条第四項、第五百四十八条により主文のとおり判決する。

(裁判官 小沢三朗)

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